最近,若い男性の化粧への関心が高まり,実際に女性と変わらない日常的な身体や顔への手入れをおこなう,男性が増加しているという.
その一方で,化粧をしない女性も増えているという.
我々の性は,大きく分けて生物学的性(男性・女性)と社会的性(男性性・女性性)とに大別される.
そして,この2つは必ずしも一致しない.生物学的性は、生まれた瞬間から決定されるが、社会的性は、社会生活のなかから社会的・文化的に期待される性に合致する役割であり、女性もしくは男性はどのようにふるまうべきかを学ぶことで形成される。伝統的には,女性は家庭生活に関連した技能が期待され,男性は運動能力,知的能力に関連した技能が期待される.
しかしながら,この男らしさに由来する男性性や女らしさに由来する女性性は対極にあるものではなく,男性でも女性でも,男性性と女性性の両方が高いもの(両性的),男性性が高く女性性が低いもの(男性的),女性性が高く男性性が低いもの(女性的),男性性と女性性の両方が低いもの(未分化)などのタイプが存在すると考えられる.
これまでの社会では,化粧をおこなうのは主に女性たちであった.そこには,化粧が女性の身だしなみの1つとして社会的に要求されてきた背景があった.
Cash et al.は,化粧の利用度と性役割との関係について、女性性が高い人ほど化粧をよく利用すると報告している.
また小林は,男子大学生を対象とした性役割と被服の着装態度との関連性について研究している.
その結果,女性的および両性的男性は男性的男性に比べファッションや外見に高い関心を示すと指摘される.
すなわち,性役割において女性性もしくは両性性の高いものはファッションや外見に関心があり,男性性の高いものはあまり関心を示さない.その一因としては、伝統的性役割のなかで男性が化粧や衣服に関心を持つことが「男らしくない」と、敬遠されてきたことに由来していると推測できる。そのため,男性性が低い,もしくは性役割に対して両性的,未分化のものは化粧行動を比較的導入し易いといえるのではないか.
また,これまでの研究から,他者と自己に起因してなされる化粧行動には自意識が大きく関係するとされている.自己に対する意識には、2つの側面がある.
1つは,顔や身体,服装や化粧など他者から容易にみることが可能な自己の身体や行動に関する意識であり「公的自意識」とよばれる.
他方は,感情や身体感覚,思考など主観に由来する意識であり「私的自意識」とよばれる.公的自意識の高い人は,自己の身体的外見が他者からいかにみられているかということに高い関心を示し,私的自意識の高い人は,あまり他者からの目に対して関心を持たず,内省的である.Cash & Cashは,公的自意識の高い女性ほど化粧をよく利用すると報告し,Miller & Coxも,公的自意識の高い女性ほど化粧の利用度や程度が高いことを指摘した.
すなわち,公的自意識の高いものほど化粧行動をとりやすいという傾向を見出している.
また松井は,公的自意識と化粧利用の程度とのあいだに必ずしもこのような単純な関係があると言い切れるわけではないと指摘しながらも,自意識にともなう外向性と内向性によって化粧行動が相違するかという研究において,外向性の高い女性ほどメイクアップ化粧品利用率が高く,内向性の高い女性ほど基礎化粧品利用率が高いということを示唆した.
すなわち,他者とのかかわりが高く他者からの視線に多く触れる機会のある公的自意識の高い人物ほど,他者の目を意識したメイクアップ化粧をおこない,自己中心的で他者の目をあまり気にせず内省的な私的自意識の強いものほど,自己のための基礎化粧もしくは化粧自体をおこなわない傾向にあるというのである.
本研究では,化粧行動が自意識や性役割といった個人差要因によっていかに規定されるかを検討した.
【原著】
平松隆円・牛田聡子 2003 化粧に関する研究 (第2報)-大学生の化粧関心・化粧行動・異性への化粧期待と個人差要因-,繊維製品消費科学,社団法人日本繊維製品消費科学会,第44巻,11月号,pp.69-75