日常の行動は,世代から世代へと社会的・文化的に伝達される.
その伝達過程は,一般的に社会生活における役割や地位,規範などの習得を「社会化」,社会固有の行動様式の習得を「文化化」と呼ばれる.
そして化粧行動や化粧意識もまた,社会的マナーの一要因として,社会や他者からの期待のうちに,個人が意識するとしないとに関わらず,日常生活の多様な場面を通して,社会に固有の様式として化粧行動は文化化され,化粧意識は社会化される.
女性を対象にした化粧に熱中する理由に関する調査によれば,「化粧品の手ごたえが病みつきになって」「雑誌の美容情報に影響されて」「好きな人ができて」「母親からの影響」などの回答が上位にあげられている.
すなわち,男女とも自らの化粧関心の高まりにより,実際の化粧行動を行っていることから,化粧に対する直接的な興味や関心が化粧行動に影響していると推察される.
また,「雑誌の美容情報に影響されて」「母親からの影響」という回答から,雑誌や家族が個人の化粧への興味や関心を高め,間接的に化粧行動に影響しているとも推察される.
リビング生活研究所による化粧情報を何から得ているかという調査では,その回答の上位項目が「雑誌」「TV」「友人・家族」「店頭」「カタログ」「店員」であることが明らかにされている.
すなわち,人々は化粧情報を必ずしも専門誌や専門家だけではなく,日常的に関わる雑誌,TV,家族,友人などからも収集し,参考にしていると推察される.
大坊は,化粧への積極的関心の高い者はポップ音楽番組やクイズ番組をみず,トレンディドラマやニュース番組をみるということを明らかにし,化粧行動とマスコミ接触との関連を明らかにしている.
すなわち,化粧行動は周囲の対人関係やマスコミといったメディアとの接触の量や多様性などにより,化粧への関心や興味などが左右され,実際の化粧行動が規定されていると推察される.
しかしながら,今日の男性化粧の増加について,美容産業が市場拡大を目的に女性だけではなく男性をもターゲットにし始めたことに起因する企業によるメディア戦略の影響が指摘されているにもかかわらず,男性の化粧行動とメディア接触との関連性の検討はほとんど見当たらない.
また,化粧の低年齢化についても「ピチレモン(学研)」「小学六年生(小学館)」といった漫画誌や学習誌などが提供する美容・ファッション情報の影響,「モーニング娘。」などに代表されるジュニア・アイドルやDCブランドでおしゃれを吸収した世代である母親といった人物の影響が相乗しているとする指摘があるのにもかかわらず,化粧行動と人物接触との関連性の検討もほとんど見当たらない.
また,この人物やメディアとの接触の影響は,化粧行動だけではなく,化粧意識についても同様にあてはまると推察される.
笹山・永松は,化粧意識として「必需品としての化粧」「身だしなみとしての化粧」「他者に見せるための化粧」の3因子を明らかにし,いくつかの要因との関連性を検討している.その中の一つとして,母親との接触と「身だしなみとしての化粧」意識の関連性を明らかにしている.
すなわち,特に普段から化粧をよく行っている母親を持つ者は,母親が化粧をしている姿をいつも見ているために,女性として化粧をすることを最低限のルールであるような意識が自然と身につくと指摘している.
このように,少ないながらも化粧意識と人物接触についての関連を認める知見がありながら,従来,化粧意識については,化粧行動と人物やメディアとの接触に関する検討ほどに研究は行われてこなかった.
そこで本研究では,男女大学生を対象として,彼らの人物,TV番組,新聞記事,雑誌種別といった人物・メディア接触が化粧行動や化粧意識にいかに影響を与えているかを検討した.
【原著】
平松隆円 2005 化粧に関する研究(第5報)―化粧行動の文化化と化粧意識の社会化の一過程としての人物・メディア接触の検討―,繊維製品消費科学,社団法人日本繊維製品消費科学会,第46巻,11月号,pp.41-54