March 05, 2007

化粧行動と自己概念

一般的に,社会で個人が行う行動は,その個人の自己に規定される.

自己に関する概念は自己概念(self-concept),それを受け入れることは自己受容(self-acceptance)と呼ばれ,この自己概念は自己の認知的側面(self- perception)と自己の評価的側面(self-evaluation)に大別される(山本・松井・山成,1982).自己の認知的側面とは,「スポーツが得意だ」「社交的だ」などといった側面であり,他方,自己の評価的側面とは,「自分に満足している」「自信がある」などといった側面である.なお,自己受容は自己評価とほぼ同義 (Rogers,1949; Silber & Tippet,1965; 中村・板津,1988) とされている.

我々は,他者との相互作用なかで形成した自己認知をどの程度のものであるか,評価している.その評価は,ある基準における優劣だけが問題になるのではなく,自己にとってそれが満足できるものか否かが重要となる.中村・板津 (1988)によれば,実際の行動が行われるに至るまでの過程として,自己の姿への注目・把握・評価が行われる.すなわち,我々は他者との社会的相互作用を通じ,自己の特徴を概念化し,それを評価する.そして,その評価を維持・低下させないよう自己の姿を操作するのである.化粧は,その操作方法としての一例である.

化粧とは何か.

一般的に我々がイメージする化粧とは,化粧水や乳液の使用といった肌の手入れの「スキンケア」や,ファンデーションやアイシャドウの使用といった色彩的な「メイクアップ」などであろう.化粧行動を,文化人類学などを参考に考えたとき,大きく次の三つに分類される(村澤,2001).まず第一に,「身体変工」である.これには,髪を切る,髪を抜く,髪を縮らせる,髪形を整える,歯を抜く,歯を削る,爪を切る,胸を大きくする,腰を細くする,足を変形させる纏足などが含まれる.次に,「色調生成」である.これには,皮膚に色を入れる入墨,皮膚を傷つける創痕などが含まれる.そして,「塗彩」である.これには,メイクアップ,ネイルメイク,ボディーペイントなどが含まれる.しかしながら,この三つに,さらに「身体維持」を加えてもよかろう.すなわち,歯を磨く,顔や髪を洗う,肌に水分や油分を補うといった肌の手入れである.

では,なぜ人は化粧を行うのであろう.大坊(2001)によれば,歴史的に医療行為の一環として,また魔除けなど宗教的行為の意味で行われており,心身の健康を図る目的があったという.また,性の強調や所属集団の認証の意味として行われているという.

このような化粧行動は,次のような要素により成っている.飽戸(1982)によれば,化粧行動には「対自的機能」と「対他的機能」がある.対自的機能とは,化粧の行為者自身の効果をめぐる化粧の機能のことであり,自己満足因子や気分因子などである.そして対他的機能とは,同性・異性に関わらず他者や社会を意識することによって生じる化粧の機能のことであり,個性化因子,美化欲求因子,身だしなみ因子などである.つまり,「化粧をすることが楽しい」「気分がよくなる」という化粧行動の主体的な楽しみとしての側面と,「男性からも女性からもきれいだと思われたい」という他者からの目を意識しての自己管理の側面を示唆している.松井・山本・岩男(1983)もまた,化粧の動機として「肌の色などの欠点カバー」「肌を守るため」「人に良い印象を与えたい」などの自己補完と他者への印象管理という対自的・対他的な動機を明らかにしている.そして,平松・牛田(2003a,2004)は,男女とも自己の化粧関心が高い者ほど実際の化粧を一層行い,男性では『魅力向上・気分高揚』の意識が,女性では『魅力向上・気分高揚』『必需品・身だしなみ』『効果不安』の意識が化粧行動と関連することが明らかにしている.


さて,自己と化粧行動の関連性については,これまで主に自意識や性役割や社会的スキルといった個人差要因(性格特性)との関連が検討されている.それらの結果を要約すると,化粧行動には男女共通して公的自意識が,性役割について男性は男性性が,女性は女性性が高い者ほど化粧関心や行動を示すこと(平松・牛田,2003b),社会的スキルの高い者ほど男女とも化粧をよく行うこと(平松,2005)などが明らかにされている.

しかしながら,自己評価の高い者は化粧をよく行う(鍋田,2004)といった指摘があるものの,自己評価と化粧行動との関連を裏付ける調査研究はほとんどない.女性のみを対象としているが,自己評価の高い者は自己評価の低い者に比べメイクアップ化粧品と基礎化粧品のどちらもより多く使用している(山中,2002)といった先行研究があるのみである.

化粧行動と隣接する被服行動については,被服に関する心理学的研究が行われるようになった頃から,積極的に自己認知や自己評価といった自己概念との関連について研究が行われている(藤原,2001).例えば,Reeder & Drake(1980)はスポーツ選手を対象に,自己評価の高い者ほど目立つ着装をすることを明らかにし,藤原(1982)は女子学生を対象に,自尊心の高い者は個性を強調するような被服行動を,自尊心の低い者は社会的受容や慎み深さを重視した被服行動をとることを明らかにしている(藤原,1986).

被服行動の先行研究から,化粧行動についても自己概念との有意な関連性のあることが仮説として推測される.また女性だけではなく男性についても,女性を対象とする化粧行動の先行研究から,男性についても自己評価の高い者ほど化粧行動を一層行うとことが仮説として推測される.しかしながら,その検討にはたんに化粧を行う者の自己概念を測定し,化粧行動との関連を検討すればよいというわけではない.中村・板津 (1988)の指摘によれば,まず,いかに自己の特徴を概念化し認知しているのか,またそれをどの程度評価しているのかを検討する必要があり,そして,その評価を維持・低下させないように,どのような化粧行動を行っているのか階層的に検討する必要があるからである.

自己認知と自己評価の関係について,沢崎(1984)は適切な自己評価が行われるためには正確な自己認知が必要であり,両者は相互依存的な関係であると指摘する.もちろん,我々は自己について一つの側面だけを認知しているわけではない.Fromm(1947)は,地位や名誉,経済力や運動能力,学校の成績や友人関係など様々な要素の卓越さを他人に認められ,また自分自身も肯定的に認知することで精神的な安定,すなわち自己評価を高めようとしていると指摘している.そのため,自己認知については多面的に検討する必要がある.

そのため本研究は,社会的機能に関して学問的関心が高まっている化粧行動を主なテーマに,当該行動と自己に関連する心理学的要因である自己概念との関連性を明らかにすることを目的に,まず大学生を対象として彼らの自己概念の構造を自己について多面的にとらえているHarter(1985)のSelf-Perception Profile for Childrenを用いて検討し,次に自己評価が彼らの化粧行動といかに関連しているかについて検討する.




【原著】
平松隆円・姜鶯燕 2007 当代日本大学生的化妆行动和自我概念的关联性,佛教大学大学院紀要,佛教大学,第35巻,pp.115-126

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