化粧は,不快感情(ストレス)緩和装置として機能する.
Zillmannによると,人は不快な感情を最小限にし,快の感情を最大限にしようとする.そして,感情の鎮静化やストレスの緩和といった感情の均衡を調整する作用を期待して,様々な行動を行う.そのような行動の1つが,化粧である.
化粧のなかでも,とりわけスキンケアを通じて肌に触れることに,リラクセーションの効果がある.
花輪らは,成人女性を対象に生理的指標を用いて化粧行動のストレス緩和作用を検討した結果,マッサージを含むスキンケアにストレス緩和効果があることを報告している.阿部は,社会生理心理学的立場から女性の化粧の効果について検討し,スキンケアには鎮静的な,メイクアップには意欲の向上につながるような作用があることを見出している.平松は,男女大学生を対象にスキンケアのもたらす感情調整作用について,主観的感情状態の変化を質問紙法により検討した結果,男女とも朝ははずみの,夕はやすらぎの感情をスキンケアによって得ていることを報告している.
一方,顔料を塗抹する化粧であるメイクアップについても,感情調整作用がある.
ポーラ化粧品本舗・ポーラ化成工業は,太田母斑に悩む成人女性を対象に化粧を施した結果,多面的感情尺度の敵意や不安といったネガティブな感情が減少し,快適や親しみといったポジティブな感情が高まったことを報告している.有川らは,アトピー性皮膚炎の女性患者を対象に,化粧の効果を質問紙調査によって検討した結果,活力が増加したことを報告している.豊増・原田は,中高年期女性を対象に化粧の効果を質問紙調査によって検討した結果,緊張―不安,怒り―敵意が減少し,活気が増加したことを報告している.
化粧は,自分自身の手によって行う日常的な行動である.だが,先行研究の多くは,医学的疾患がある女性を対象とし,さらに化粧が日常的な行動であるにもかかわらず,専門家の技術介入を前提としたマッサージやフルメイクアップを用いて検討がされているため,知見が限定的である.そのほかにも課題は残る.
阿部は,肌に触れることでリラクセーションを導くと指摘している.すなわち,顔面への顔料の塗抹である化粧は,その施術において肌に触れることが余儀なくされ,感情調整作用が肌に触れることによるものか,顔料の塗抹によるものかを曖昧にしている.
さらに,化粧のもたらす感情調整作用について,余語は,専門家が化粧を施術する際に,顔に触れたりしながら,被施術者に視覚的・触覚・皮膚感覚的に自己を確認する過程を作り出し,言語的・非言語的相互作用を活発化させることが情動を活性化させると指摘している.したがって,化粧専門家の介入は,感情調整作用が純粋に化粧によるものか,専門家との言語的コミュニケーションによるものかをも,曖昧にする.
そこで本研究は,化粧行動のなかでも専門家の介入を必要とせず肌への接触も少ない,とりわけ簡便なマニキュアを施すことによって,ストレス増減の変化や,感情調整作用にどのような影響があるのかを明らかにすることを目的とした.
【原著】
平松隆円 2009 POMSを用いたマニキュアによる化粧行動の感情調整作用に関する研究,佛教大学教育学部学会,第8巻,pp.107-112
