December 25, 2007

化粧規範に関する研究 ―化粧を施す生活場面とそれを規定する化粧意識と個人差要因―

人は,様々な場面で化粧を行う.だが,それは常に一定の化粧行動ではない.

雑誌などのファッション特集をみてみると,週の始まりはきりりラインメイクで仕事モードに切り替える,結婚式のお呼ばれ美女増しヘア,恋を叶えるスイートメイク,オフィスでは色味を抑え上品な仕上がりに,などの場面によって異なる化粧行動が提案されている.これは,たんなる化粧の流行としての提案ではなく,その場面にふさわしいと考えられる化粧行動の提案である.

人々が,社会的な場面で暗黙のうちに化粧行動を規定する何らかのルール,すなわち,社会や集団において個人が同調することを期待されている行動や判断の基準である「規範」を共有していることを示している.それはいわば,被服において人が服装を選ぶときの基準として「着装規範」があるように,化粧において人がどのような化粧をするかを選択する基準としての「化粧規範」の存在を意味している.

我が国では,中川や被服社会心理学(SPC)研究会などの一連の研究により,着装規範については多くの知見が積み重ねられている.例えば,人々が様々な生活場面で着装する衣服を選択するさいに考慮する基準を,着装基準ととらえ,衣服が生活場面で果たす機能により,各場面にふさわしいと思われる基準に従って衣服を選択して着装していること,日常の生活場面を『フォーマル』『セミフォーマル』『インフォーマル』の3場面に分け,場面に応じて『個性・流行』『実用性』『社会的調和』の3基準を使い分けて着装行動を行っていることが明らかとなっている.

しかしながら,従来,化粧に関する規範研究は行われておらず,関連する研究として日比野らの研究があげられる程度である.
日比野らは,女子大学生364名を対象に,社会的場面でどの程度入念に化粧を施すか調査を行った.その結果,化粧が入念に施される程度が高いのは,異性との対人相互作用が行われる場面や化粧品販売や洋服販売などの対面販売場面であった.しかしながら,同じく対人相互作用場面である高齢者や心身障害者,幼稚園児と接する場面,また同じく対面販売であっても食料品の販売では,化粧の入念度が低くいことが明らかとなった.すなわち,化粧が促進される場面と抑制される場面が存在し,人々は場面によって化粧の施す程度を調整している.

化粧行動を規定する「化粧規範」は,場面はもちろん,行動の対象である他者,性別や個人差要因によって,様々に規定されるであろう.したがって,化粧が施される場面や考慮される基準を構造化し,性別や個人差要因などの関連を分析することによって,化粧規範に関する総合的な検討が必要である.

そこで本研究は,社会的な場面での化粧行動を規定する「化粧規範」の解明に向けて,次の2点について男女の違いを明確にするとの意図のもと,男女を比較しながら検討を行った.

まず第1に,松井らによると,化粧は変身願望,創造的楽しみ,周囲への同調,社会的役割の適合などが目的とされる.平松・牛田が,化粧にどのような意識を若者がもっているのかについて検討を行ったところ,『魅力向上・気分高揚』『必需品・身だしなみ』『効果不安』の3つの化粧意識が明らかとなった.この結果は,若者が自己に向けた対自的な意識だけではなく,他者との関係に向けた対他的な意識により,化粧を行っていることを意味している.したがって,日比野らによって,化粧が入念に施される場面と対人相互作用の高低との関連が指摘されていることから,特に化粧に関する対他的な意識が,化粧を行う場面や程度についても規定していると仮説した.
そこで,様々な生活場面での化粧行動が,どのような意識のもと行われているのかを明らかにするため,化粧を施す生活場面を規定する化粧意識ついて検討した.

次に,これまでの化粧の研究では,個人差要因との関連が検討されている.例えば,男女共通して公的自意識が高い者ほど化粧関心や化粧行動を示すこと,男性では外的他者意識が化粧意識を,女性では公的自意識や外的他者意識が化粧意識を規定することが明らかとなっている.また,着装規範の研究においても,個人差要因との関連が検討されており,公的自意識が着装規範を規定することが指摘されている.そのため,化粧を施す生活場面についても,個人差要因,特に自己や他者の外面への意識である公的自意識や外的他者意識により規定されていると仮説した.
そこで,化粧意識だけではなく個人差要因がどのように,化粧を施す生活場面を規定しているのか検討を行った.


【原著】
平松隆円・牛田好美 2007 化粧規範に関する研究 ―化粧を施す生活場面とそれを規定する化粧意識と個人差要因―,繊維製品消費科学,社団法人日本繊維製品消費科学会,第48巻,12月号,pp.59-68  ENGLISH PAGE
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March 05, 2007

化粧行動と自己概念

一般的に,社会で個人が行う行動は,その個人の自己に規定される.

自己に関する概念は自己概念(self-concept),それを受け入れることは自己受容(self-acceptance)と呼ばれ,この自己概念は自己の認知的側面(self- perception)と自己の評価的側面(self-evaluation)に大別される(山本・松井・山成,1982).自己の認知的側面とは,「スポーツが得意だ」「社交的だ」などといった側面であり,他方,自己の評価的側面とは,「自分に満足している」「自信がある」などといった側面である.なお,自己受容は自己評価とほぼ同義 (Rogers,1949; Silber & Tippet,1965; 中村・板津,1988) とされている.

我々は,他者との相互作用なかで形成した自己認知をどの程度のものであるか,評価している.その評価は,ある基準における優劣だけが問題になるのではなく,自己にとってそれが満足できるものか否かが重要となる.中村・板津 (1988)によれば,実際の行動が行われるに至るまでの過程として,自己の姿への注目・把握・評価が行われる.すなわち,我々は他者との社会的相互作用を通じ,自己の特徴を概念化し,それを評価する.そして,その評価を維持・低下させないよう自己の姿を操作するのである.化粧は,その操作方法としての一例である.

化粧とは何か.

一般的に我々がイメージする化粧とは,化粧水や乳液の使用といった肌の手入れの「スキンケア」や,ファンデーションやアイシャドウの使用といった色彩的な「メイクアップ」などであろう.化粧行動を,文化人類学などを参考に考えたとき,大きく次の三つに分類される(村澤,2001).まず第一に,「身体変工」である.これには,髪を切る,髪を抜く,髪を縮らせる,髪形を整える,歯を抜く,歯を削る,爪を切る,胸を大きくする,腰を細くする,足を変形させる纏足などが含まれる.次に,「色調生成」である.これには,皮膚に色を入れる入墨,皮膚を傷つける創痕などが含まれる.そして,「塗彩」である.これには,メイクアップ,ネイルメイク,ボディーペイントなどが含まれる.しかしながら,この三つに,さらに「身体維持」を加えてもよかろう.すなわち,歯を磨く,顔や髪を洗う,肌に水分や油分を補うといった肌の手入れである.

では,なぜ人は化粧を行うのであろう.大坊(2001)によれば,歴史的に医療行為の一環として,また魔除けなど宗教的行為の意味で行われており,心身の健康を図る目的があったという.また,性の強調や所属集団の認証の意味として行われているという.

このような化粧行動は,次のような要素により成っている.飽戸(1982)によれば,化粧行動には「対自的機能」と「対他的機能」がある.対自的機能とは,化粧の行為者自身の効果をめぐる化粧の機能のことであり,自己満足因子や気分因子などである.そして対他的機能とは,同性・異性に関わらず他者や社会を意識することによって生じる化粧の機能のことであり,個性化因子,美化欲求因子,身だしなみ因子などである.つまり,「化粧をすることが楽しい」「気分がよくなる」という化粧行動の主体的な楽しみとしての側面と,「男性からも女性からもきれいだと思われたい」という他者からの目を意識しての自己管理の側面を示唆している.松井・山本・岩男(1983)もまた,化粧の動機として「肌の色などの欠点カバー」「肌を守るため」「人に良い印象を与えたい」などの自己補完と他者への印象管理という対自的・対他的な動機を明らかにしている.そして,平松・牛田(2003a,2004)は,男女とも自己の化粧関心が高い者ほど実際の化粧を一層行い,男性では『魅力向上・気分高揚』の意識が,女性では『魅力向上・気分高揚』『必需品・身だしなみ』『効果不安』の意識が化粧行動と関連することが明らかにしている.


さて,自己と化粧行動の関連性については,これまで主に自意識や性役割や社会的スキルといった個人差要因(性格特性)との関連が検討されている.それらの結果を要約すると,化粧行動には男女共通して公的自意識が,性役割について男性は男性性が,女性は女性性が高い者ほど化粧関心や行動を示すこと(平松・牛田,2003b),社会的スキルの高い者ほど男女とも化粧をよく行うこと(平松,2005)などが明らかにされている.

しかしながら,自己評価の高い者は化粧をよく行う(鍋田,2004)といった指摘があるものの,自己評価と化粧行動との関連を裏付ける調査研究はほとんどない.女性のみを対象としているが,自己評価の高い者は自己評価の低い者に比べメイクアップ化粧品と基礎化粧品のどちらもより多く使用している(山中,2002)といった先行研究があるのみである.

化粧行動と隣接する被服行動については,被服に関する心理学的研究が行われるようになった頃から,積極的に自己認知や自己評価といった自己概念との関連について研究が行われている(藤原,2001).例えば,Reeder & Drake(1980)はスポーツ選手を対象に,自己評価の高い者ほど目立つ着装をすることを明らかにし,藤原(1982)は女子学生を対象に,自尊心の高い者は個性を強調するような被服行動を,自尊心の低い者は社会的受容や慎み深さを重視した被服行動をとることを明らかにしている(藤原,1986).

被服行動の先行研究から,化粧行動についても自己概念との有意な関連性のあることが仮説として推測される.また女性だけではなく男性についても,女性を対象とする化粧行動の先行研究から,男性についても自己評価の高い者ほど化粧行動を一層行うとことが仮説として推測される.しかしながら,その検討にはたんに化粧を行う者の自己概念を測定し,化粧行動との関連を検討すればよいというわけではない.中村・板津 (1988)の指摘によれば,まず,いかに自己の特徴を概念化し認知しているのか,またそれをどの程度評価しているのかを検討する必要があり,そして,その評価を維持・低下させないように,どのような化粧行動を行っているのか階層的に検討する必要があるからである.

自己認知と自己評価の関係について,沢崎(1984)は適切な自己評価が行われるためには正確な自己認知が必要であり,両者は相互依存的な関係であると指摘する.もちろん,我々は自己について一つの側面だけを認知しているわけではない.Fromm(1947)は,地位や名誉,経済力や運動能力,学校の成績や友人関係など様々な要素の卓越さを他人に認められ,また自分自身も肯定的に認知することで精神的な安定,すなわち自己評価を高めようとしていると指摘している.そのため,自己認知については多面的に検討する必要がある.

そのため本研究は,社会的機能に関して学問的関心が高まっている化粧行動を主なテーマに,当該行動と自己に関連する心理学的要因である自己概念との関連性を明らかにすることを目的に,まず大学生を対象として彼らの自己概念の構造を自己について多面的にとらえているHarter(1985)のSelf-Perception Profile for Childrenを用いて検討し,次に自己評価が彼らの化粧行動といかに関連しているかについて検討する.




【原著】
平松隆円・姜鶯燕 2007 当代日本大学生的化妆行动和自我概念的关联性,佛教大学大学院紀要,佛教大学,第35巻,pp.115-126  
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November 27, 2006

化粧行動許容に関わる公衆場面の構造解明とそれを規定する個人差要因

電車内や駅ホームで化粧を行う女性たちが話題になって久しい.否,今日では男性たちにおいてさえ,それをみることができる.

なぜ,彼らは公衆場面で化粧を行うのか.
菅原は,電車内での化粧行動の特徴に「若さへのこだわり」「流行への関心の強さ」「親子関係への不満感」という3点をあげ,この特徴から「同年齢集団への強い依存性」に注目し,同じ価値観を共有する仲間との人間関係が濃厚になるほど,他の人間関係が希薄化し,生きる世界が限定されているため,恥を意識する世界も狭められているとし,電車内での化粧といった行動は,個々に特別な理由や動機があるわけではなく,公共場面に居合わせる他の人々の存在を,気にしていないという共通の背景から生まれていると指摘した.
澤口は,電車内での化粧行動を恥や迷惑だと考えないことについて,脳科学のアプローチから教育やしつけの不十分さに起因する,脳の前頭連合野の未熟による感情的知性の未発達ゆえの感受性・感情表現の鈍化という脳機能障害の一種であると指摘した.
米澤は,場所を問わず衆人環視のもとで化粧行動が日常的になりつつある現象は,化粧が覆い隠したり補正したりするのではなく,モード化し,着こなしになった結果であるとして,電車内で化粧をする女性が増えたのは,化粧への考え方が大きく変わったため,自らをフィギュアのような容姿に作りこむコスメフリークの90年代の日本が生み出した文化現象であると指摘した.

このような指摘がなされるなか,電車内や駅などでの化粧行動に関する調査が行われた.ベネッセは,高校生を対象に調査を行い,15.8%の者が電車内や街で化粧をすることを「絶対やめて欲しい」と回答したのに対して,50.4%の者が「特にかまわない」と回答したことを報告した.この数値は,学年が上がるにつれ増加傾向を示しており,男女別では,「絶対もしくは,できればやめて欲しい」と回答した者は,男性では41.3%,女性では56.2%と,男性の方が許容している.
また中央調査報は,全国20歳以上の男女約1400人を対象に調査を行い,全体では66.0%が電車内の化粧を「気になる」と回答し,属性別では男性は58.2%が,女性は73.2%が,電車通勤・通学者は71.8%が,非電車通勤・通学者は65.0%が「気になる」と回答したことを報告した.
内田・小林は,公共の場で化粧をする者は,自分より他者に寛容であることを報告した.

これまでの化粧行動の許容に関する研究では,主に電車内や駅を対象としており,多様な公衆場面を対象としての,化粧行動の許容の構造を明らかにした研究はほとんどない.また,これまでの若者を対象とした化粧研究では,化粧行動には男女共通して公的自意識が,化粧意識には男性は外的他者意識が,女性は公的自意識や外的他者意識が関連することが明らかにされており,公衆場面での化粧の行動の許容と,これら個人差要因についても有意な関連性が仮説として考えられが,これを裏付ける先行研究も見当たらない.

そこで,本研究では,まず若者が様々な公衆場面での化粧行動についてどのように考えているのか,その許容の構造を明らかにするとともに,化粧行動や化粧意識に関連する自意識や他者意識といった個人差要因が,化粧行動の許容にいかに影響しているのかを明らかにすることを目的として調査を行った.


【資料】
平松隆円 2006 化粧行動許容に関わる公衆場面の構造解明とそれを規定する個人差要因,繊維製品消費科学,社団法人日本繊維製品消費科学会,第47巻,11月号,pp.12-21

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January 05, 2001

SPPCモデルによる大学生の自己概念の検討

我々は,社会を通して自己に関する知識を蓄積し,自己の能力,行動,性格などを評価し自己の存在を受け入れている.

一般的に,自己に関する概念は自己概念(self-concept),それを受け入れることは自己受容(self-acceptance)と呼ばれる.この自己概念は,自己認知 (self- perception)と自己評価 (self-evaluation)に大別される(山本・松井・山成 1982).自己認知とは,「スポーツが得意だ」「社交的だ」などといった様々な要素から構成される自己の認知的側面であり,他方,自己評価とは,「自分に満足している」「自信がある」などといった自己に対する評価的側面である.なお,自己受容は自己評価とほぼ同義とされている(Rogers 1949,Silber 1965,中村・板津 1988).

人は,他者との相互作用なかで形成した自己認知をどの程度のものであるか,評価している.評価は,ある基準における優劣だけが問題になるのではなく,自己にとってそれが満足できるものか否かが重要となる.

さて,自己認知と自己評価の関係について,沢崎(1984)は適切な自己評価が行われるためには正確な自己認知が必要であり,両者は相互依存的な関係であると指摘する.白波瀬(2004)は醜形恐怖症,自傷,摂食障害などの多くは,極端に低くまたは不適切に自己の外貌を認知することにより,自己評価が低くなり自己を受け入れることができず精神病理として発症していると指摘する.

これらの指摘は,自分自身をどのように受け入れ,また安定した自己像が形成されているかについては,自己の適切な認知が重要であるという知見を提供する.もちろん,我々は自己について一つの側面だけを認知しているわけではない.Fromm(1947)は,地位や名誉,経済力や運動能力,学校の成績や友人関係など様々な要素の卓越さを他人に認められ,また自分自身も肯定的に認知することで精神的な安定,すなわち自己評価を高めると指摘する.そのため,自己評価を高める要因としての自己認知については,可能な限り多面的にとらえる必要がある.


本研究の目的は,自己について多面的にとらえているHarter(1985)のSelf-Perception Profile for Children(以下SPPC)モデルにより,大学生の自己概念の構造について検討を行うことである.

SPPCとは,Scholastic Competence(学業能力),Social Acceptance(友人関係),Athletic Competence(運動能力),Physical Appearance(容姿),Behavioral Conduct(品行)という5つの下位尺度からなる自己認知に関する30の質問項目と,Global Self-Worth(全体的自己価値)という1次元の自己評価に関する6の質問項目から構成されている.なお,全体的自己価値とは他の自己認知的側面とは独立して存在するとされ,ありのままの自己を抑圧・歪曲なしに受け入れることとであり,自己評価を意味している(Harter 1985).これまで,日本においてSPPCを用いた研究は,児童を対象としてものにいくつかある.

桜井(1983)は,SPPCのもととなった,Cognitive(学習),Social(友人),Physical(運動),General Self-worth(全体的自己価値)の4つの下位尺度を構成する28項目からなるPerceived Competence Scale for Children(Harter 1979,以下PCSC)の日本語版を作成し,検討している.その結果,原尺度と共通性の高い日本語版が作成され,学習と全体的自己価値の年齢の上昇にともなう単調減少傾向と,運動と全体的自己価値の男女差を明らかにしている.

藤崎・高田(1992)は,小学生にはSPPCを,成人にはSociability(対人関係),Job Competence(仕事),Nurturance(養育),Athletic Abilities(運動),Physical Appearance(容姿),Adequate Provider(供給),Morality(道徳),Household Management(家事),Intimate Relationships(親密な関係),Intelligence(知的能力),Sense of Humor(ユーモア),Global Self-Worth(全体的自己価値)の12の下位尺度を構成する50の質問項目からなるAdult Self-Perception Profile(Messer and Harter 1986,以下ASPP)を,中学生や高校生や大学生にはASPPのうち対人関係,運動,容姿,道徳,親密な関係,知的能力,全体的自己価値の7つの下位尺度を用いて横断的に発達的変化を検討している.その結果,小学生では全体的自己価値と友人関係,中学生では全体的自己価値と容姿,成人では全体的自己価値と仕事が1つの因子として抽出され,発達段階により全体的自己価値に強く影響している下位尺度が異なることを明らかにしている.また,年齢の上昇により 友人関係,対人関係,親密な関係といった人物との関わりを重要と考え,小学生では友人関係や運動能力,中学生以上では知的能力,運動,容姿,全体的自己価値について男性は女性に比べ有意に高いことを明らかにしている.

前田(1998,1999)は,SPPCの日本語版を作成し,それを絵画式に改訂したうえで健康状態の異なる児童で検討した結果,健康上慢性状態にある児童群は対照健康児童群に比べ運動が否定的ではあったものの,その他については有意差がないことなどを明らかにしている.

眞榮城(2000)は,SPPCの日本語版を作成し,児童期にいる者の自己概念を検討しているが,小学3年生から6年生と中学1・2年生に有意な差があり,自己認知や自己評価が中学1・2年生頃から低下することを明らかしている.

このように,SPPCは日本において既にいくつかの日本語版が作成され,日本人に適用可能であることが証明されている.そのため,本研究においても,大学生の自己概念を検討するうえ有効であると考えSPPCを用いた.Harterは,青年期を対象とするSelf-Perception Profile for Adolescents (以下SPPA) や青年後期を対象とするSelf-Perception Profile for College Students(以下SPPCS)など幼児から成人まで5種類の尺度を作成している.

本来,大学生の自己概念を検討するならば,SPPAもしくはSPPCSを用いるべきであるが, Harterの各尺度に共通して存在する基本的な自己概念の因子によって構成されているSPPCを用いて検討を行うことで,大学生の基本的な自己概念構造を明らかにしやすく,また様々な発達段階での横断的な比較検討が可能であると考え,本研究ではSPPCを用いた.

さらに,これまで,日本において作成されている自己概念に関する多くの尺度は,当然のことながら日本人のみを対象としており,他国において比較検討された例をみることはほとんどない.しかしながら,SPPCは,スコットランド(Hoare et al 1993),オランダ(Van Dongen-Melman et al 1993),アラブ首長国連邦(Eapen et al 2000),フランス(Worth-Gavin and Herry 1996)をはじめとする様々な国において,翻訳・比較研究が行われているため.SPPCを用いることで今後,自己概念についての国際的な比較検討が可能であると考えられる.


【原著】
平松隆円 2008 SPPCモデルによる大学生の自己概念の検討,佛教大学大学院紀要,佛教大学,第35巻,pp.77-89  ENGLISH PAGE
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January 02, 2001

人物・メディア接触への個人差要因の影響

高度情報社会である今日,我々は,日常的に多様なメディアに接触している.

これまでの先行研究の多くは,メディアへの接触率やそれらと収入や住居環境など各種属性との関連性,また人物やメディアへの接触が我々の生活や意識にどのように影響を与えているかについての検討である.

例えば,豊福は,大学生を対象に情報化に対する意識を調査した結果,「情報先取り指向」「対情報自律指向」「情報収集に対するコスト意識」「情報化是認・コミュニケーション指向」「対情報消極指向」「情報発信指向」の6因子を明らかにし,男性は女性に比べ「対情報自律指向」が高く,女性は男性に比べ「情報先取り指向」「情報化是認・コミュニケーション指向」が高いことを明らかにしている.
そして,男性は雑誌やTVなどの接触が高く,女性は電話やポケットベルなどの接触が高いことも明らかにしている.

五十嵐は,大学生の情報探求性を調査した結果,「メディア情報源の活用」「対人情報源の活用」「一般的情報探求性」の3因子を明らかにし,女性は男性に比べ「対人情報源の活用」をより意識していること,およびTV,書籍,雑誌,新聞,携帯メールへの接触が高いことを明らかにしている.

萩原は,ほとんどの大学生がラジオに接触していないものの,逆にTVには住居環境(自宅/下宿)による有意差はなく日常的に接触し,TVを長時間視聴する者ほどニュース・報道番組や教育・教養番組を視聴せず,ドラマ番組やバラエティ番組を視聴すること,特に男性はスポーツ番組やアニメ・マンガ番組に,女性はドラマ番組や音楽番組により多く接触していること,また雑誌については男性は週刊誌,女性は月刊誌に主に接触し,新聞には男女ともあまり接触していないことを明らかにしている.

平松は,大学生の化粧行動や化粧意識と人物やメディアとの接触との関連性を調査し,化粧行動や化粧意識は人物やメディアの持つ積極的・消極的情報の影響を受け,それぞれ促進・抑制されていることを明らかにしている.

このような,メディアへの接触率や基本属性や意識・態度との関連を調査した先行研究は,被調査者のメディアに対する実際の行動を明らかにしており重要な知見を含む.
しかしながら,我々の行動は余暇時間や情報機器の所有率といった外的要因だけではなく,個人差要因(性格特性)といった内的要因によっても規定されるにもかかわらず,従来,我々のメディア接触と個人差要因との関連を検討した研究はほとんど見ることができない.

そこで本研究では,現在の若者のメディア接触が,どのような個人差要因により規定されているのか検討を行った.
なお,若者を調査対象者に選んだ理由として,社会人とは異なり,仕事上の必要性から情報を得るためにメディアに接触する必要がないため,社会的バイアスが低いことが挙げられる.

また,NPO法人子どもとメディアによって,1日6時間もの間も他者と言葉を交わさない子どもたちが小・中学生の調査対象者(2143名)の25%にも及ぶことが明らかにされていることから,メディアではないものの,人物接触についても同時に調査を行った.



【原著】
平松隆円 2006 人物・メディア接触への個人差要因の影響,佛教大学教育学部学会紀要,佛教大学教育学部学会,第5巻,pp.165-171

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青年期の自己認知・評価の構造

は じ め に
青年期の醜形恐怖症者,自傷者,摂食障害者などの増加と関連し,自己への関心が一層高まっているといわれる.

この原因には、自己の容姿の評価が極端に低くなっていることが指摘される(鍋田,2004).

もちろん,我々は自己について容姿だけを認知しているわけではない.

社会的経験を通じて自己に関する知識を蓄積し,能力,行動,性格などを評価し自己の存在を受け入れている.

そして,自己評価が行われるためには正確な自己認知が前提となる(沢崎,1984).

青年期は他者との関わりにおいて容貌や友人関係,学歴社会を反映しての学業能力など様々な要因が自己評価に影響することが明らかにされている.


そこで本研究では,青年期の自己認知・評価を検討するうえで自己について多面的にとらえているHarter(1985)のSelf-Perception Profile for Children(以下SPPC)を参考に,青年期の自己認知・評価測定尺度の作成とそれに基づく自己認知・評価の構造解明とそれらの関連性について検討を行う.

なお,SPPCモデルを本研究において選択した理由には,すでに眞榮城(2000)によりSPPCが邦訳され小学3年生から中学生2年生までの児童期について検討がなされているため,自己認知・評価の発達的変化を検討することが可能であること,SPPCはオランダ(Van Dongen-Melman, Koot, & Verhulst,1993)やアラブ首長国連邦(Eapen, Naqvi, & Al-Dhaheri,2000)などでも比較研究が行われているため,自己認知・評価についての国際的な比較検討が可能であることがあげられる.


調 査 の 概 要
1) 調査方法と調査時期及び被調査者
2005年4月から5月にかけて,関西の4年制大学の学生を対象に集合法による質問紙調査を実施.

調査対象者は,男性414人(平均年齢19.19歳,SD=1.40),女性348人(平均年齢18.95歳,SD=1.42)の計762人である.

2) 自己認知・評価測定尺度
SPPCは,Scholastic Competence(学業成績),Social Acceptance(友人関係),Athletic competence(運動能力),Physical Appearance(容姿),Behavioural Conduct(品行)という5つの下位尺度からなる自己認知に関する30の質問項目と,Global Self-Worth(全体的自己価値)という1次元の自己評価に関する6の質問項目から構成されている.

本研究では眞榮城(2000)の日本語訳を参考に,青年期の大学生に適用可能なように表現を改め翻訳を行い,それを用いた.

そして,自分自身の意識のあり方について、5件法で回答を求めた.


結 果
1) 自己認知・評価の因子構造
自己認知に関する30の質問項目の構造について検討するため,主因子法(Varimax回転)による因子分析を行った.

他の因子に対して負荷量の高かった項目を削除して,再度因子分析を行ったところ,5因子構造が明らかとなった.

次に,自己評価に関する6の質問項目の構造について検討するため,主因子法(Varimax回転)による因子分析を行った.

その結果,1因子構造が明らかとなった.


2) 信頼性の検討
自己認知・評価測定尺度の各因子について,信頼性を検討した.

内部一貫性を推定するCronbachのα係数を算出したところ,運動能力が0.84,容姿が0.80,友人関係が0.67,品行が0.55,学業能力が0.61,自己評価が0.75であった.



3) 尺度間の相関関係
自己認知・評価測定尺度の各因子について,Pearsonの相関分析を行った.

その結果,友人関係と学業能力について1%水準の,その他の組合せについて0.1%水準の有意な正の相関がみられた.

特に自己評価と関連では,容姿(r=.57, p<.01)が中程度の相関を,運動能力(r=.26, p<.01)や友人関係(r=.39, p<.01)や品行(r=.34, p<.01)や学業能力(r=.36, p<.01)が弱い相関を示した.


4) 自己評価を規定する自己認知の検討
発達的変化にともなう自己評価を規定する自己認知の差を検討するため,被調査者の年齢の中央値に基づき高群と低群の2群に分け,Stepwiseの変数選択法による重回帰分析を行った.

その結果,年齢の低群では容姿(β=.41)や友人関係(β=.23)や品行(β=.17)や学業能力(β=.16)が0.1%水準で有意に選択された(F=94.54 R²=.44 p<.001).

他方,年齢の高群では容姿(β=.49)や友人関係(β=.30)や学業能力(β=.24)が0.1%水準で有意に選択された(F=60.82 R²=.51 p<.001).

次に,発達的変化にともなう自己評価を規定する自己認知について性差の点から検討するため,男女別にStepwiseの変数選択法による重回帰分析を行った.

その結果、男性では容姿(β=.40)や友人関係(β=.21)や品行(β=.19)や学業能力(β=.18)が0.1%水準で有意に選択され(F=66.25 R²=.43 p<.001),他方,女性では容姿(β=.48)や友人関係(β=.28)や学業能力(β=.17)が0.1%水準で,品行(β=.10)が5%水準で有意に選択された(F=75.63 R²=.50 p<.001).


【原著】
平松隆円,自己認知・評価測定尺度作成の試み,2005年社会心理学会第46回大会,日本社会心理学会第46回大会論文集,pp52-53  
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