国際日本文化研究センター(日文研)は,創設20周年を迎えた.
日本文化を研究するためには,関係する個別専門分野ごとの成果が着実に積み重ねられなければならない.
と同時に,専門分野の枠組みを越えて,研究者が相互に知見を高めあう場が必要である.
そのため,日文研では,国際的・学際的・総合的な観点から,日本文化に関する研究課題を設け,所属する研究者はもちろん,国内外から参加する様々な分野の研究者により研究が行っている.
日文研の活動は,従来の学問的枠組みとは大きく異なるものである.
しかしながら,その理念や研究方法は,自然と人間の歴史的営為が地球規模で複雑に絡み合って生じる21世紀の様々な難問に立ち向かおうとするなかで,先駆的なものである.
実際,各大学においても,専門性の高い研究だけではなく,総合的に考察するという学問が必要とされてきている.
総合政策学部や総合人間学部といった学部の設置は,その事情をあらわしている.
今回は,国際的・学際的・総合的研究について,日文研の研究活動を紹介することを通じて考えてみたい.

国際日本文化研究センター
日文研は,我が国に18設置されている大学共同利用機関のひとつとして,1987年5月21日に創設された.
大学共同利用機関とは,1971年の高エネルギー物理学研究所を第1号に,我が国独自の方式として,国内外の大学研究者が共同で利用でき,各種の高度で大型の研究施設・実験設備又は貴重な学術資料等を保有する,日本が世界に誇れるトップレベルの研究機関である.
大学共同利用機関での研究活動の多くには,予算や研究効率等の面から人材や研究資金等が重点的に投入され,独創的で最先端の研究が行われている.
例えばニュースや新聞で耳にする,ハワイにある世界最大の大型望遠鏡「すばる」や南極観測船「しらせ」.
これらは,大学共同利用機関である国立天文台や国立極地研究所の施設である.また,
論文検索などに用いるGeNiiも大学共同利用機関である国立情報学研究所が運用している.
また,日文研は人間文化研究機構を構成する研究機関でもある.
人間文化研究機構は,2004年に設立された研究組織であり,国立歴史民俗博物館,国文学研究資料館,国際日本文化研究センター,総合地球環境学研究所および国立民族学博物館という5つの研究機関によって構成されている.
これら諸機関は,学問的伝統の枠を超えて連合し,自然環境をも視野に入れた人間文化の総合的研究拠点を形成し,そこから新しいパラダイムを創出し,研究をすすめている.
研究活動
日文研に所属する研究者の専門分野は,非常に多岐にわたる.
専任教員の専門分野だけでも,社会学,歴史学,民俗学,国文学,中国文学,比較文学,文化交流史,労働経済学,音楽学,造園学,意匠論,情報学,情報通信工学,考古学,環境考古学,イスラーム政治思想史などである.
方法やテクストの異なる専門領域の研究者が,共通の課題のもと研究を行うことは難しい.
そのため,様々な専門分野をもつ研究者が,日本文化の総合的な究明をもたらすべく,その方法として研究域・研究軸を設定している.
研究域・研究軸は,個々の研究が日本文化研究総体のなかでどのように位置付けられるかをしめす座標である.
これにより,個々の研究は,たがいの位置関係を把握することができるようになる.
そして,この座標のなかの空白を新しい研究が次々に充填して行くことで,総合的な日本文化の究明を試みる.
そして,それは個人の研究活動だけではなく,異分野の研究者による共同研究で最も効果的に展開される.
そのため,日文研が最も力を入れているのは,共同研究方式の日本文化研究である.
関係する個別専門分野ごとの成果の蓄積と合わせて,専門分野の枠組を越えて,研究者が相互に知見を高めあうことで,総体として日本文化理解を促進させることを目標としている.
共同研究では,日本と異なる知的伝統にたつ海外の研究者との交流をも重視している.
異文化からの視点は研究に新しい展望と成果を与え,また研究のあり方に,よい意味での相対比をもたらす.
さらに,国際化の時代を迎えた今日,日本文化研究もまた国際化をはかることで,時代の要請に応えることができる.
日文研の共同研究は,単なる研究成果の交換にとどまるものではない.専門分野及び知的伝統を異にする研究者が研究過程を共有することによって生みだされる創造性,これこそが,日文研の共同研究が目指すところである.
なお,平成19年度では,昨年度からの継続も含めて15の研究課題が設定されており,共同研究以外にも,「文明研究プロジェクト」「伝統文化芸術総合研究プロジェクト」など,多様なテーマを対象に共同研究がされている.

研究協力活動
日文研は,研究活動とならんで研究協力活動を設置目的のひとつに掲げている.
研究協力活動は,海外の日本研究がいっそう活発化するための一種の研究支援活動である.
その具体的内容は,海外への日本研究情報の発信と,世界に日本研究者の交流を促進する活動に分けることができる.
日本研究情報の調査と発信では,図書館の蔵書の基本的性格も日文研固有の研究活動と研究協力という観点から構想されている.
すなわち,日本研究書の体系的収集,分野を問わない日本研究に必要な資料集・全集・辞書など基本的図書の充実,最新の日本における日本研究の成果の収集,日本で必要な研究資料に効率的にアクセスできるように各種の目録の収集など,その情報を広く海外に発信することも考慮し,蔵書の整備と構築を続けている.
なお,日文研の研究成果は,『日本研究』などの出版物,「日文研フォーラム」や「国際研究集会」などの講演会・シンポジウムなど,様々な形で順次国内外に提供している.
大学院教育
我が国初の学部を有しない大学院大学として,総合研究大学院大学がある.
その課程は,博士課程のみであるが,大学共同利用機関を基盤として高度の研究機能を生かし,各研究機関の施設・設備を利用し,また各研究機関の教員により指導が行われている.
日文研においても,文化科学研究科国際日本研究専攻の基盤機関として,国内外の諸分野における日本研究の成果をもとに,学際的・国際的視野から新しい日本研究を確立する研究と教育を行っている.
全教員の指導による単一の教育・研究指導分野として,「国際日本研究」を設け,国際的な立場から「日本研究」の理論的・方法論的な枠組を明確化する研究指導を行い,高度で視野の広い国際性豊かな研究者の育成に務めている.
また,国際的な視角から日本研究者を育成することを目指し,外国人留学生を積極的に受け入れている.
他大学の博士課程の院生に対しては,「特別共同利用研究員」として受入れ,研究指導を行っている.

国際的・学際的・総合的研究の創造性
園田英弘(1994)は,「複雑化した世界を研究するのに,研究者が単純すぎる観点しかもてないとすれば,それは不幸なこと」と指摘した.
園田の指摘は極端ではあるものの,しかし,21世紀は,専門志向的あるいは課題追求的研究を出発点としながらも,ひとつの専門だけは対象の深い分析も不可能になりつつあり,また課題追及的研究も専門志向的研究の豊富な理論とデータの蓄積があってはじめて可能となるため,いずれかの方法だけで研究を遂行することは難しい.
このように考えるならば,専門志向的あるいは課題追及的研究が相互補完的に作用すること,大げさにいえば,一人の研究者が社会学者であり国文学者であるという立場となることで,新たな第3の学問的枠組みをもって研究を行うことができる.
梅原猛は,『日本研究』の創刊の言葉で「このセンターは国際的・総合的な共同研究の機関であるが,同時に新しい学問の創造の機関でもある」と述べた.
はたして,国際的・学際的・総合的研究により,新しい学問が創造され,人間文化の新しい研究をすすめることができたか,否か.その答えは,日文研の20年の研究成果が証明していよう.
ともあれ,日文研では,今日も領域横断的ともいえる国際的・学際的・総合的な研究方法で,想像を超える創造を目指し,研究を行っている.
【会員便り】
平松隆円 2007 国際的・学際的・総合的研究の創造性-国際日本文化研究センター創設20周年に想う-,繊維製品消費科学,社団法人日本繊維製品消費科学会,第48巻,5月号,pp.69-72
